ホテル宴会サービスのProfessional Mind
※ブライダル産業新聞10月11日号掲載
広島エアポートホテル(広島県三原市)の料飲統括支配人・平野直孝氏は、ソムリエを志してホテルに就職。その後リゾートホテルにてブライダルの経験を重ね、2017年、同ホテルに移籍し、現在はレストラン、宴会、ウエディングを統括する立場である。
ホテルが掲げている方針の品質を上げること、顧客の印象に残ることという二つのテーマを実現すべく、スタッフの意識醸成を図っている。また、アルバイトを使わず社内スタッフがマルチ体制で全員接客を進めている状況で、運営管理を担う重要な役割も果たしている。

総支配人室 料飲統括支配人
(広島B.M.C.)
平野 直孝さん
婚礼打合せで現場サービス経験が活きる
1993年、学校卒業後に広島市内のホテルに就職した平野氏。ソムリエに憧れ、フレンチ、和食レストランのサービススタッフとしてのスタートだった。4 年目に宴会サービスへ異動となったが、多人数を相手にするサービスに戸惑いも感じた。

一人ひとりに丁寧に接することを求められていたレストランのサービスとは違い、宴会サービスでは皿を 4 枚 5 枚持って運ぶのは当たり前。料理のソースが多少ズレていても、時間がないためそのまま出してしまうという印象でした。
初めの頃は、思い違いもしていたという。ベテランのマネージャーに比べて、若いスタッフの方が機動力もスピードも早いため、それこそマネージャーはいなくても現場は回るだろうと思っていた。管理など裏の仕事に気づかなかった当時のことを振り返り、改めて今の若手には、スタッフの働きやすい環境を作っているマネージャーの役割を伝えたいという想いも強い。
その後少しずつ経験を重ねていくと、会場のキャプテンや結婚式の先導を任されるようになっていった。その際、黒服を着させてもらい、徐々に仕事の面白さを感じ始めた。

結婚式のキャプテンは新郎新婦の一番近くで、幸せな気持ちを身近に感じられました。また、リゾートホテルに移籍した際には、婚礼支配人としてプランニングの仕事も経験。何ヵ月も前から打合せを重ねて新郎新婦との関係性も深まっていくのは魅力的な仕事だと感じましたし、やればやるほど仕事の幅は広がっていく。
こだわりの強い新郎新婦も多い中で、例えば『チャペルにバイクで入場したい』といった要望に対しても、現場サービスの経験から可能かを即答できたのは強みだったと思います。
その後、同ホテルに移籍し、レストラン、宴会を含めた料飲部門全体を統括する立場となった平野氏。ホテルの方針として掲げている品質を上げること、顧客の印象に残ることを推進している。品質については、例えば結婚式で来館する新郎新婦に対して、スタッフ全員が『おめでとうございます』と祝福の言葉をかけているかなど、小さなことを一つひとつ改善していった。

披露宴スタッフは当たり前のように対応していても、フロントの場合、新郎新婦だと気づかないため、キチンと祝福を言えていないという課題もありました。そこで各セクション長を集め戦略会議を行い、まずはすべてのスタッフが作業中でも必ず手を止めて挨拶するという意識を徹底。結婚式だけでなく、仮に旅行者であればしっかりと『いってらっしゃいませ』と言葉をかける意識づけです。またどういう顧客が来館するのかを把握できるよう、全員に【リザベーションシート】を持たせて、各自で確認していく仕組みも取っています。品質を考えた場合、仮に一人でもしていなければ出来ていないわけで、だからこそ全員できちんと挨拶するための仕組化は大切なことです。
もう一つのテーマである印象づくりについては、インバウンド宿泊客を意識して、ホテル入口に100個の風鈴を飾る、折り紙を用意するなど、日本らしさを感じさせるおもてなしを実施。来てくれた顧客それぞれの目的に沿った思い出を残してもらうという考え方が根底にあり、これは宴会でも同じだ。
その一つとして、プロスポーツチームが宿泊した際には、選手の通るバックヤードに設置してあるホワイトボードに、スタッフたちが手書きで応援メッセージを書いた。またバンケットのクロスもわざわざチームカラーに合わせたものを発注し、チームを盛り上げる装飾で会場を作り上げていった。

後日、そのチームの公式Xに、ホテルのスタッフが応援メッセージを書いてくれたと写真付きで紹介されました。その投稿を見たチームのサポーターから、『今度広島で試合のあるときは絶対エアポートホテルに泊まります』というコメントが数多く寄せられていました。宴会サービスにおける気配りや配慮の結果であり、小さな工夫が大きな成果を生み出したと言えます。
こうしたアイデアが、スタッフから積極的に出てくるようになったのも重要なことだ。修学旅行を受け入れる際のミーティングでは、最後に簡単なテーブルマナーやナプキン折りを教えたいという提案も。顧客のための工夫を自ら考え提案していく意識が、スタッフ全体に浸透している。結果として、毎年リピートしてくれる団体や学校も増えている状況だ。
現在同ホテルは、宴会・レストランにアルバイトや派遣スタッフを入れず、全て自社スタッフで運営している。宴会サービス専属スタッフ 1 人で、残りは経理やフロントのスタッフが加わるというケースも珍しくはない。すべてのスタッフがすべてのセクションをこなす、マルチ体制を推進している。

外部スタッフを使わない理由の一つは、社員だからこそ会社を背負ったサービスができるという考え方によります。一方、複数部署を兼任するため熟練度の差も課題でした。そのため導入時には数日間のロールプレイ研修を実施。既に 2 年ほど続けており、さらに人事異動で宴会からフロントへ、フロントから宴会へなど経験も循環し、全体レベルも安定してきています。
全体のシフト調整は、平野氏が担っている。各スタッフは自分の業務を効率的にこなしながらサービスに参加する形で、今後は総合予約でシフト管理を一元化する体制も検討している。

他部門のスタッフが料飲サービスに入るメリットは、部署同士でお互いの気持ちを理解できるようになり、関係性も深まっていきます。例えばフロントスタッフが宴会やレストランに入ると、自分も経験しているからこそおススメの料理を顧客に対して自信を持って提案できるようになります。実は当ホテルの総支配人は有名旅館の出身。それもあって、部署の垣根を越えて全員でおもてなしをする、旅館のような良さが出ていると言えます。

