ホテル宴会サービスのProfessional Mind
※ブライダル産業新聞6月11日号掲載
金沢ニューグランドホテル(石川県金沢市)の塚本有紀チーフマネージャーは、高校を卒業後2000年に同ホテルに入社。
レストラン中心に仕事をしながら、宴会部門のヘルプなども経験。23歳の若さでホテルが運営する外部レストランの店長に抜擢されて以降は、着々とキャリアを積み重ねてきた。
常連の多いホテル内のレストランでは、顔や名前、さらに普段何を食べ、飲んでいるのかまで覚え、それを基にコミュニケーションを築いていく。コミュニケーションを育むために、サービスマンとしての基礎の重要性を説く。

料飲部 チーフマネージャー
(北陸B.M.C.)
塚本 有紀さん
外部レストランで経験を積み重ねる
学校の先生に薦められて、ホテルマンの道に入った塚本氏。レストラン部門に配属され、宴会場のヘルプなどでバンケットサービス経験も積み重ねてきた。当時はまだ18歳。高級なレストランに行ったこともなく、料理の知識すら全くなかった。提供方法やマナーなども含め、まさにイチから学んでいった。

レストランと宴会両方の仕事をしながら、その違いを感じることはありました。
レストランは基本的に、いつ顧客が来るかもわからない。急に満席になることもあれば、いきなりVIPが来店するといった大変さがありました。
宴会は事前にスケジュールも決まっていて、何時から何時まで、流れもある程度把握できるため自分のやるべき仕事もイメージしやすい。ただ、祝賀会や受賞の晩餐会など、お祝い事に関連した宴会も多いからこそ、失敗してはいけないという緊張感も大きかったですね。
サービス素人だった塚本氏だが、ホテルマンとして自信を持てるようになったのは入社5 年後、会社からレストランの店長に抜擢されたことだった。自身も店長になることへの憧れを持っていて、他の社員に比べて異例の就任スピードだった。

百貨店内の中国料理のレストランで、当時は外部店舗の店長を経験させ、少しずつスキルを積んでいくという文化がありました。それまでの仕事を評価されたことは嬉しかった一方、売上面を会議で求められるため不安もありました。
もっとも塚本氏の着任後、レストラン売上は上昇した。ホテルマンの高飛車な態度が出てしまう店長もいた中で、顧客層に合わせてシンプルかつ丁寧な案内を心がけた。ランチ時に行列になれば、顧客を逃さないよう『すぐに案内します』と頻繁に声を掛け、空いた席のテーブルを素早く片付ける意識を徹底。対応も含めて評価は高まり、常連も徐々に増え毎月売上目標を達成した。
外部店舗で実績を積んで、26歳の時にホテル内のカフェレストラン店長に。当然、百貨店の客層とは異なる。宴会場を利用した人がそのまま食事に来るほか、日頃から使っている常連も多く、顔と名前を覚えることは大切な仕事だった。

宴会の仕事にも出ていたため、そこで顔を覚えてもらった人から声をかけてもらえたのはメリットでした。もちろん常連になるほど、料理やドリンクのパターンも覚えなければなりません。ただ記憶力はもともと良かったですし、覚えていることに対して評価の言葉をもらうことも多く、そこにやりがいを感じました。さらに関係性を築いていくと、宴会をホテルでやりたいといった、営業的な話にもなっていきました。
ある日、レストランの常連だった日本舞踊の師範から祝賀会を依頼された。会場設営や料理、サービスに至るまで、現場を預かる立場として塚本氏は何度も打合せを重ねた。テーブルクロスの色やステージの設置など細かな点を決めていき、毎回出てくる修正にも対応。結果、「今回の演出は良かった」、「料理もサービスも素晴らしかった」と多くの人から感謝の言葉を受けたという。
36歳でマネージャーに、現在はチーフマネージャーとしてレストラン全体の統括だけでなく宴会部門の面倒も見る立場である。人員不足が課題の料飲部門で、教育も任されている。若い人材に、ホテルで働く魅力を伝えることを重視している。

ホテルの仕事は、普通ではなかなかできない特別な経験もできます。
当ホテルはニューオータニとアソシエイト提携をしていて、2019年の天皇陛下生前退位に関する一連の公式行事の際には、総理大臣主催の晩餐会などにアソシエイトのスタッフとして派遣されました。各国の首脳の集まる晩餐会において、全国から集まったスタッフに対して、テーブルごとの担当のほか、配膳、下膳、料理提供、アレルギー対応まで細かく役割を命じられました。アレルギーのある人には、どの料理を、誰が、どのタイミングで出すのかという確認を含め、3 日間にわたりリハーサルも行いました。こうした普段できない貴重な経験も、ホテルマンの魅力です。
このような特別な経験以外に、ホテルで仕事をしていると顧客から感謝の言葉をもらう機会も多くあり、それが仕事の魅力だと語る。レストラン、宴会、さらに結婚式でも『一生の思い出になりました』と感謝を伝えられ、他業種では得られないやりがいとなる。前述した日本舞踊の師範の祝賀会のように、印象に残る顧客との関わりによって、学べることもある。

その逆として、大きなクレームを受けたこともあります。ただその時にも、『普通なら何も言わずに帰ってしまうが、あなたにはちゃんと伝えたかった』と言われました。いわば私のために言ってくれたわけで、そこからキチンと対応していったことで、今では私に様々な相談をしてくれる関係性になりました。顧客との信頼関係の大切さ、それを築く責任を学ぶことも大切です。
ホテルでは高いレベルのサービスを求められるため、技術、知識も必要となる。学びは大変な反面、やりがいにもなる。塚本氏はテーブルマナーの資格を取得し、現在は講師として、学生向けに100名規模の講習を年に2 回ほど実施している。

もっとも若手の教育については、技術、知識以上に、基礎となる【しっかり挨拶ができる】、【声を大きく笑顔でサービスできる】スタッフになるということを重点的に教えてきました。例えば新卒採用の時にも私は教育担当として、1 週間から1 ヵ月かけてサービストレーニングを行っていて、『いらっしゃいませ』、『ありが
とうございました』の発声、お辞儀の仕方といった基礎から教えます。その後に皿の持ち方やトレーの運び方などの技術的な指導に移りますが、まずはサービス業である以上、笑顔で対応することは全ての基本だと伝えています。
