ホテル宴会サービスのProfessional Mind
※ブライダル産業新聞5月1日・11日合併号掲載
高校を卒業した2006年、ホテルメトロポリタン 盛岡(岩手県盛岡市)に入社した料飲部マネージャーの田口美加氏。
ホテルの仕事の右も左も分からなかった状態で宴会サービス部門に配属され、いまや宴会一筋19年目を迎えた。
チーフ兼マネージャーとして現場に出ながら教育も任される立場であるが、同時に4歳の子どもを育てながら働くママさん。子育てと仕事を両立するキャリアビジョンを描くロールモデルとして、宴会サービス現場の新たな仕組みも構築しながら、若いスタッフたちを牽引している。

料飲部 マネージャー
(東北B.M.C.)
田口 美加さん
若手コンペティションで仕事の面白さを感じる
ホテルの仕事と言えばフロント、ウエディングプランナー、レストランスタッフ程度しか知らなかった状態で、宴会部門に配属されキャリアをスタートした田口氏。新入社員の頃は、毎日がむしゃらに付いていくだけで必死だったという。この仕事の面白さを感じたキッカケは、3 年目20歳の時に参加した【東北B.M.C.】主催の若手コンペティションへの出場だった。入社5 年以内の若手を集めた大会で、テーマは簡単なオーダーテイク、カクテル作成、オレンジのカッティング、クレープのフランベ技術を競うものだった。そのコンペティションで見事3 位に入賞し、改めて宴会サービスの面白さを感じ始めた。

それまで経験したこともなかった技術のため、コンペティションに向けて先輩たちから教えてもらいました。オレンジカッティングやクレープのフランベは、宴会場のサービスマンの【見せ場】でもあると改めて実感。私たちの仕事は単に飲食を提供するだけでなく、主体となって技術を披露できる場面もあるのだと知り、それならば技術を極めてプロと呼ばれるようになれたらいいな、というポジティブな気持ちが芽生えました。
田口氏は更なる研鑽のために、一般社団法人 日本ホテル・レストランサービス技能協会(HRS)の国家資格であるレストランサービス技能検定にもチャレンジ。すぐに2 級を取得し、その後も学びを続けて10年目に1 級を取得することもできた。また宴会サービスの仕事を通じて顧客からかけられる言葉も、仕事のモチベーションとなった。

新入社員のときには、【頑張っているね】と声をかけられ、経験を重ねていくにつれ【スマートでかっこいい】と。最近は【あなたにお願いしたい】、【あながた担当してくれたから成功に終わった】など、経験に応じて内容が変わっていくのは、仕事の喜びでもありますし、救われることがあると感じています。
5 年目になり初めて会場を担当、披露宴担当は10年目だった。初めての会場担当の時には緊張や不安があったものの、それ以前に料理を運ぶランナー、音響操作などのPA業務など、すべての業務を一通り経験していたことで、積み上げてきたものがあればこそ乗り越えられるだろうという気持ちであった。披露宴担当は、女性キャプテンとしていつか先導を担当したいという目標を持っていたこともあり、そのフィールドに立てたことへの喜びと共に、今でも覚えている特別な経験だったという。

披露宴の担当は、何回経験しても緊張感があります。【幸せしかない空間】とも言える特別な場所ですし、自分たちもいかに盛り上げて感動的な空間に持っていくかが求められていますから。
エスコートの仕方のスマートさも重要で、所作ひとつで印象も変わり、かっこよく見えなくなってしまいますから。
現在はチーフ兼マネージャーの立場で、現場にも出ながらスタッフ教育も任されている。
約20部屋の宴会場に対して、社員数は20人ほど。休みなども考慮すれば、自ずと配膳スタッフにサポートしてもらう部分も大きい。とはいえ配膳スタッフも1 回きりの仕事で辞めてしまうケースがあり、いかに継続的に何回も来てくれるようにするかは大きな課題だ。

最初にOJTでのトレーニングは実施していますが、ホテル独自の取り組みとして【10回フォロー制度】を設けています。これは宴会の台帳に『〇〇さん1 回目』、『〇〇さん5 回目』とその宴会に入るスタッフが何回目の勤務か一目で分かるようにしていて、さらにフォロースタッフの名前も記載しています。
フォローしてくれるスタッフを明確化することで、誰に聞けばいいのかわからないという不安を払拭。さらに何回目かを誰でも確認できるため、まずは10回クリアしようなどモチベーションを高める雰囲気となり、スタッフとしてもとにかく10回はクリアしようという目標になり、継続してくれるケースも増えています。
同じような仕組みは社員教育にも活用していて、会社全体で【ブラザー・シスター制度】を採用。新入社員が入ってきたときに、2 年目・3 年目の若手スタッフとペアを組ませ、1 年間ブラザー・シスターの関係を維持して教育を進める。ただ先輩にあたる社員が壁にぶつかることもあるため、さらに中堅層の社員(入社9 年目程度)をフォロー役として対応している。
田口氏は、4 歳の子どもを育てながら働くママさんマネージャーでもある。これまでは産休・育休を経て復帰する際に、そのまま現場に戻る例は少ない状況だった。その点では、【働くお母さん代表】のような立場でもある。

時間の制約はどうしても出てきて、基本的な勤務時間は朝9 時から夜の7 時まで。ただ配膳スタッフにも、学生だけでなく主婦層が多くいます。私も朝から勤務していますが、配膳の主婦の人たちも9 時~14、15時までの勤務を希望する人は多く、同じような時間帯で一緒に働いています。
午前中や昼から始まる宴席はあるものの、やはり多いのは夕方以降である。そこで日中帯に田口氏はじめ主婦の配膳スタッフが会場設営やスタンバイなどの準備を進めておき、夜の担当のため午後から出勤してくるスタッフに引き継いでいくという、作業分担の流れを作った。前日夜の宴席が遅くなった場合も、翌日朝から設営などを対応してくれるため、ある程度残しておいてもいいとなり、夜のスタッフが早く切り上げられるようになっている。

現在、若い宴会スタッフの男女比は、女性の方が多いため、私の存在は彼女たちの目指すべき一つのキャリアビジョンになっています。子どもの急な体調不良といった場合でも、周囲の協力態勢は万全。時には顧客に正直に事情を説明し、こちらのスタッフが全てを引き継ぎますと紹介してバトンタッチすることもあります。こうした理解が進んでいる現在の状況は大きいですね。
